邂逅の森

作者:熊谷達也|文春文庫
直木賞山本周五郎賞ダブル受賞作品が文庫化。
明治・大正に秋田と山形の山に生きたマタギの富治を描いた大河ドラマ
小作農の富治は、厳しい冬の山に入り、クマやカモシカを獲って生計を立てていた。
貧しいながらも充実した生活を送っていたが、地主の一人娘の文枝と恋に落ちる。
だが、娘の父親に発覚し、富治は村を追放され、鉱山に送られる。
元々体力のある富治は、すぐに頭角を現し、新大工となる。
同じ炭鉱で働く没落武士の息子の慎之介に慕われるが、様子がおかしい。
無理矢理理由を聞きだすと、鉱山夫に男色を強要されていたが判明。
慎之介はその後自殺し、富治は男色を強要した鉱山夫を糾弾し、自らも鉱山を去ることになる。
次に移った鉱山では、ヤクザ上がりの小太郎という大男を配下にして、働くようになる。
小太郎は何かと富治に反発するが、ある日、猟銃でクマを仕留めたのをみて、富治を兄貴と慕うようになる。
ある日、雪崩が発生し、鉱山夫達が住む宿舎を押しつぶしてしまう。
九死に一生を得た富治と小太郎は、小太郎の故郷で、マタギの生活を送ろうとする。
貧しい村には余所者の富治を受け入れる余裕もなく、ある条件を提示する。
それは、小太郎の姉のイクと結婚をすること。
イクは女郎上りで、村の誰とでも寝る女性で、鼻つまみ者だった。
富治は悩んだ末、イクと結婚することを決める。
だが、イクは結婚した途端に真面目に働くようになる。富治のマタギの仕事も順調になった。
苦労を重ね、一人娘のすゑを猟師頭の家の嫁にやり、二人で穏やかに生きていこうとしていたが、
イクはある日、失踪してしまう。かつての恋人の文枝が富治を訪ねてきたので、自分は身を引こうとしたのだ。
富治はあちこち探し回り、ようやくイクを見つけ出し、最後の猟にでかける。
最終章は、巨大なクマと格闘する話だが、山の神様が富治に下した裁定は過酷なものだった。
ストーリーも描写も掛値なしの一級品で、非常に面白く、深く感動した。
厳しい生活を送ってきた雪深い里の人たちや、失われてしまった日本の原形が見事に甦る作品。
年明け早々、良い本を読んだ。

邂逅の森 (文春文庫)

邂逅の森 (文春文庫)