汝ふたたび故郷へ帰れず

作者:飯嶋和一小学館文庫
ミドル級のボクサー新田駿一は、いつまで経っても日本ランクの試合ができず、腐っていた。
いつしかアル中になり、トレーナーにアル中の矯正施設に放り込まれる。
失意のまま、生まれ故郷の奄美大島の近くにある「宝島」に逃げ帰る。
かつての自然は残っていたが、半分は開発の手が入っていた。
自分の心の居場所だと信じていたが、違和感を覚える。
また、兄のように慕っていた男が、漁の事故で亡くなっていたことを知る。
その息子が、駿一の活躍の記事のスクラップを持って、訪れる。
そんなとき、老いたトレーナーが亡くなったという知らせを受け取る。
二人の映った写真の裏には、「君と戦えて光栄でした」と書かれていた。
再び、リングを目指すことを決意した駿一は、島を出て、東京に戻る。
ワカダンナという新たなトレーナーと共に、トレーニングを始め、復活のリングに上がる。
クライマックスのボクシングの試合は30ページに渡り、迫力がある。
今から20年近く前に発表された作品で、古さは否めない。でも、ベタなところが逆に面白かった。
また、脇役の人物描写はさりげないけど、面白い。
他に国鉄の寂れた駅長で定年を迎えた父親の懺悔話の「スピリチュアル・ペイン」と、
燻った日常をクマ狩りにぶつける「プロミスト・ランド」の2つの短編が収録されているが、こちらも面白い。

汝ふたたび故郷へ帰れず (小学館文庫)

汝ふたたび故郷へ帰れず (小学館文庫)