夢の回廊

作者:梁石日幻冬舎文庫
作者には珍しい短編集。7編収録されている。
「夢の回廊」は終戦直後の大阪で、子供のころに目撃した殺人事件が悪夢として続いている男の話。
次の「さかしま」はその殺人事件の犯人の話。幼なじみを殺害した男は、その後悲惨な運命をたどる。
戦後の大阪の朝鮮人長屋のいかがわしさが、グロテスクさを際立たせている。
てっきり連作集だと思ったが、次の「蜃気楼」は全く違う話になる。
大阪で貸金業で挫折した男が、新宿の飲み屋で燻る話だ。
酒とタバコで体調を崩していくところは、思い当たるシーンもあり、生々しい。
次の4つの作品はタクシーの運転手が直面する不思議な話。
新耳袋や、平山夢明の実話怪談に通じるものがあり、面白かった。
幽霊と見間違え、殺害された女性を見捨て、遺族に訴えられる話。
土砂降りの東名高速で、乗せた乗客が消滅した話。
忘れ物をネコババした運転手が、中国人から報復を受ける話。
長距離客が、別れた恋人を殺そうとしていた話。
作者自身、タクシーの運転手をしていたのだから、これで1冊仕上げたらよかったのに。
とはいえ、表題作の「夢の回廊」を除けば、収録されている作品は面白い。
「さかしま」の簡単に人を殺し、簡単に騙され、簡単に死んでしまう内容は悪夢という言葉がぴったり。

夢の回廊 (幻冬舎文庫)

夢の回廊 (幻冬舎文庫)