国銅(上・下)

作者:箒木蓬生|新潮社文庫
奈良時代に大仏を作るために、人足に駆り出された名も無い人たちの大河ドラマ
長門の国の銅の鉱山で、兄の広国と作業に励む国人(くにと)が主人公。
休みもなく、暗闇の中で銅を掘り起こす、つらい日々を送っている。
頼りだった兄が転落死したときに、石仏を彫る僧、景信に出会う。
景信から文字と薬草を学び、黒虫という口の聞けない相棒と銅を鋳る作業に入る。
黒虫の存在は兄が死んだことを癒してくれ、国人は周りの人たちに可愛がられる。
景信は様々なことを国人に教え、いつしか、絹女という想い人も出来た。
一方、文字を書くことで、仲間にいじめられたり、黒虫が作業中に死亡する事故もあった。
使役に駆り出され5年後、国人は大仏建立のため、15人の仲間と奈良に使役に赴く。
今と違い、違う土地に赴くのは、考えられないような苦難があった。
仲間を一人失い、奈良の都に着いた国人たちは、早速大仏造営の作業に就く。
都でのは大仏を作る作業は辛かった。仲間が事故で亡くなったり、逃亡したり。
国人は持ち前の賢さで、様々な人と仲良くなり、詩を理解するようになる。
都に上って5年後、開眼式までこぎつけ、国人は長門に帰ることを許される。
都を出たのは3人まで減っていた。帰り道も苦難が待ち受けていた。

名もなき人を見事に描ききった、感動的な小説だった。
昨日まで元気だった人が、苦役で死亡する理不尽さ。
文字を覚えていくことで、広がる世界。
人は何のために生きているのか、考えさせられる作品だった。
この作家はいい作品を書く。「逃亡」「三度の海峡」「総統の防具」も良かった。
歴史小説でもこんなにいい作品を書くのかと脱帽。

国銅(上) (新潮文庫)

国銅(上) (新潮文庫)