魔王

作者:伊坂幸太郎講談社
政権をとりそうな野党の党首に対して、ファシズムの匂いを感じ取る会社員の兄。
兄に対して危うい気持ちを感じているが、気楽な生活を送る同居の弟。
対照的な性格だが、非常に仲の良い兄弟は、弟の彼女と3人で過ごしている。
ある日、兄は思ったことを他人に話させる特殊な能力があることに気づく。
党首が力をつけていくにつれ、排他的な愛国心に覆われていく日本人たち。
兄は党首の選挙演説カーに近づき、党首を失脚させようとするまでが第一部。
「俺はもっと、戦う大人になる予定だったんだよな。対決してよ、世界を変えちゃうくらいのさ」
「でもよ、この道をあと何年進もうと、格好いい大人には辿り着かない気がするんだ」
第二部の舞台は仙台に移り、弟の彼女の視点から描かれる。
この人の小説に出てくる人物は基本的に良い人ばかりで、限りなく優しい。
人の悪口は決して語らず、少し気取った台詞も嫌味に聞こえることはない。
宮沢賢治の作品が大きな主題になっていて、本質的には悲劇だがサラッとしている。
独特の世界観に磨きがかかり、現実から遠ざかっていく作風は面白い。

魔王

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