名をこそ惜しめ

作者:津本陽文藝春秋
副題は「硫黄島 魂の記録」で、この歴史小説作家には珍しい戦記モノ。
日本軍が玉砕した島で、生き残った何人かの将兵の視点から描かれている。
硫黄島は太平洋戦争のなかでも、米軍の死傷者が日本軍を上回った激戦地だ。
米軍が上陸するまでの、地下壕を構築する苦難について前半は費やされている。
30代後半以降の兵隊も多く召集されていたのには驚く。
米軍上陸後の戦闘場面では、勇ましいところも描かれているが、大半は悲惨だ。
地下壕を米軍に囲まれ、爆弾を背負って戦車に体当たりする兵隊達。
将官に対する記述は少ないが、戦車隊の西中佐は死のシーンまで描かれる。
約1ヶ月の戦闘後、玉砕したはずだったが、実は1万人近く生きていたのは驚く。
彼らの多くは投降することなく、大半は自殺同然に死んで行った。
戦死した仲間への想いが、彼らを投降させることができなかったのだろう。
玉砕後、地下壕で飲み水も無く、地熱に苦しまされるところを読むのは辛かった。

名をこそ惜しめ 硫黄島 魂の記録

名をこそ惜しめ 硫黄島 魂の記録