木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上・下)

作者:増田俊也新潮文庫
単行本で出た時から、読みたかった作品。
柔道界において、「木村の前に木村無し、木村の後に木村無し」といわれた男。
その強者が、プロレスの曙光期の王者力道山になぜ負けたのか。
戦前の柔道界は、現在主流となっている講道館以外に高専柔術が幅を利かせていた。
そんな状況のなか、木村は師匠の牛島熊辰の指導のもと、日本王者となる。
戦争で徴兵された木村だが、奔放な活動をし、師匠の牛島と東条英機を暗殺しようとする。
戦後、牛島は講道館と手を切り、プロ柔道を立ち上げる。
木村も行動を共にするが、金銭トラブルで袂を分かつ。
木村は海外興行に旅立ち、ブラジルでグレイシー柔術の大家を破る。
戦後の荒んだ木村の絶頂期だった。
国内の興行がうまくいかないので、木村は力道山日本プロレスに合流する。


力道山に主役を譲り、負け役を続けた木村はストレスがたまり、力道山と勝負することになる。
だが、木村には力道山には負けないという圧倒的な自負があり、周りもそう見ていた。


結果は屈辱的なノックアウトで、力道山の引き立て役になってしまった。


木村が負けるはずがないという関係者の話を掘り起こしつつ、筆者はやはり木村の負けだったと書く。


極真空手大山倍達も絡めて、戦後のどさくさをのし上がった格闘家の群像劇で面白かった。