竜が最後に帰る場所

作者:恒川光太郎講談社文庫
この作家は、角川ホラー文庫でデビューしたが、ホラー作家ではない。
今の日本では数少ない幻想小説作家だ。
デビュー時の朱川湊人に雰囲気は近いが、作風はもっと幻想的だ。
この作品は短編集で、5作収録されている。
今までの作品の中では、より現実的な描写のモノが目立つ。


「風を放つ」は不思議な力を持つモノを小瓶に閉じ込めたことを聞く話。
その所持者と主人公は電話でしかコミュニケーションを取っていない。
「迷走のオルネラ」は大人から虐待受けている少年の復讐譚で、ちょっとまだるっこしい。
「夜行の夜」は冬の夜に現れる赤いコートの女性についていくと、人生が変わる話。
パラレルワールドを生きていく人たちの交流が意外で、面白かった。
「鸚鵡幻想曲」は形のあるものが、ある生命体の偽装だと問いかけられる話。
携帯電話が無数の虫の偽装だったり、ガードレールが植物の偽装だったり。
その発見者が主人公に対して、「あんたも偽装だ」と言われ、旅に出る。
この話もいい。
「ゴロンド」は空想上の動物の生存譚。これもいい感じ。


現実とそうではない世界の狭間を感じさせないテクニックは素晴らしい。
この本も悪くないけど、過去の作品はもっと幻想的だ。