月と詐欺師(上・下)

作者:赤井三尋|講談社文庫
1930年代の大阪。
灘尾財閥は三井や三菱などの財閥に肩を並べようとしていた。
当主の儀一郎は独裁者で、社員は奉公人として扱い、欲しいものはなんでも手に入れてきた。
堂島で米問屋を営む橘屋を破産に追い込み、経営者を自殺に追い込む。
その後、ターゲットにした娘を妾にしたが、娘も自殺。
残された息子の瀬戸俊介は、東京一高を退学し、両親と姉の敵を取るために、大阪に戻る。
俊介は、食堂の食い逃げ事件に巻き込まれ、春日という詐欺師と知り合いになる。
春日は俊介の生い立ちを知り、深く同情する。
俊介が所持していた丸山応挙の掛け軸を高値で売り、儀一郎を破滅する計画を立てる。
スケコマシが得意、情報収集のプロフェッショナル、声帯模写の専門家が春日のチームに加わる。
俊介と春日は、儀一郎に追い出された灘尾電機の社長を味方につけ、攻撃を開始する。
軍部に取り入ることで、莫大な収益を上げることのできる時代を逆手に取る。
春日はどこの国も開発ができていない、レーダーを儀一郎に売り込む。


新興財閥の破たんや、ブルジョアの左翼勢力への参加に対する摘発など、当時の背景を丁寧に描いているのは良い。
ストーリーもスリリングで、登場人物のその後の描写もほろ苦く、面白かった。
ただ、俊介と春日の出会いがかなり唐突で、信頼関係を簡単に築いていくところは少し興ざめ。
これにより、春日の詐欺師仲間も薄っぺらく感じた。
ストーリーはいいのに、人物造形には失敗していると思った。
一気読みできる面白さだったが、ちょっと残念。


月と詐欺師(上) (講談社文庫)

月と詐欺師(上) (講談社文庫)