水神(上・下)

作者:箒木蓬生|新潮文庫
17世紀の半ば、久留米藩の中で水の恩恵から取り残された村の庄屋達が土木工事で川の流れを変える話。
筑後川の水流を変え、全ての村に平等に水がいき届くことを考えている高田村の庄屋の助左衛門。
彼は、歩きまわり、水流を変えるための絵図面を作成し、仲のいい近隣の庄屋5名と藩に連名で訴え出る。
周りの村からは反対意見も多く、奉行からは工事費用は自己負担ということになった。
さらに、工事が上手くいかなければ、五庄屋は磔にするという条件を飲まされた。
ただ、下奉行の菊竹源左衛門だけは、彼らに好意的で、様々な便宜を図る。
五庄屋は、近隣の庄屋と話し合いに臨み、商人から借財をし、ようやく工事が始まる。


助左衛門の使用人の元助は、村に水を送るため、毎日過酷な作業を続けていた。
この作品は半分は元助の視点から描かれているが、百姓の日常を地面の視点から描いているからリアルだ。
工事が始まるまでの腹を空かせ、希望のない日々。
工事が始まると、重労働に駆り出されながらも、肥沃な土地を耕す夢を見る。


工事は順調に進むが、竣工間際に死亡事故が発生し、五庄屋は死を覚悟する。
完成前に全員が死ぬわけにはいかないので、誰が死ぬか話し合う。
ところが、下奉行の菊竹が自らの死を引き換えに庄屋達の命を守る。


期日通りに水流を変える工事は完成し、全ての村に水が行きわたる。
助左衛門は、村人たちに菊竹が死を引き換えに出した嘆願書を読みあげる。
実に感動的な結末だ。


内容はベタだが、当時の百姓の厳しさは、白土三平並みにリアルだ。
その悪条件の上に、5つの庄屋の磔を辞さない決意と、下奉行の菊竹の覚悟が重なり、見事な作品となった。


新田次郎作品賞の受賞作。
作者は白血病に罹患したらしいが、まだ次の作品を期待している。


水神(上) (新潮文庫)

水神(上) (新潮文庫)