誘拐

作者:五十嵐貴久双葉文庫
旅行代理店に勤める孝介は、リストラを推進するため、一人で中高年の社員に退職を勧めていた。
リストラされた社員が一家心中し、孝介の中学生の娘も飛び降り自殺をする。
孝介の娘と、リストラされた社員の娘は親友だった。
孝介は会社を止め、赤坂にマンションを借り、総理大臣の孫娘を誘拐する。
そのころ、政府は韓国と重大な条約を結ぶこととなっており、警察は北朝鮮の関与を疑う。
緊急配備を引く警察に対し、孝介は細心の注意を払い、日本政府に30億円の身代金を要求する。
日本の首相である佐山は構造改革を進め、弱者の救済は気にもしなかった。
だが、孫娘だけは溺愛しており、誘拐事件にショックを受ける。
韓国と会談を成功させるために、首相をコントロールする関係者。
そこに孝介はさらに首相を痛めつける行動に出る。
韓国との会談を何とか乗り切った佐山だが、孝介のコントロール下の元、経済界にショッキングな言動をする。
その後、佐山は入院してしまい、経済界は混乱に陥る。
孝介の狙いは、誘拐ではなく、自分たちを苦しめた銀行にあった。
警察の上層部は、北朝鮮の工作を疑わなかったが、首相の言動に疑問を感じた警部がいた。
警部は孝介に迫るが、その前に孝介は身代金ともいえる金を略取する。


構造改革によるリストラを許せないサラリーマンによる政府への復讐は小気味良い。
導入部分となる中年サラリーマンへのリストラとその悲劇は、孝介へのシンパシーを高める。
その上で、警察と銀行以外はだれも困らないシナリオを描いた孝介は最後まで格好いい。
この作家はいい話を書く。


誘拐 (双葉文庫)

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