あした咲く蕾

作者:朱川湊人|文春文庫
昭和40年代から50年代の東京の下町を舞台にした幻想的な短編集。
「あした咲く蕾」は命を与えることのできる能力を持つ美貌の叔母の短い生涯の話。
「雨つぶ通信」は雨の日だけ、他人の心の声が聞こえる少女の話。
「カンカン軒怪異譚」は売れない役者と中華料理屋の女性主人との交流。
「空のひと」は子供が生まれる直前に交通事故で亡くなった夫が戻ってくる話。
「虹と野良犬」は家庭に恵まれないガキ大将と少し知能に問題のある少女の話。
「湯呑みの月」は母と叔母の確執に翻弄される少女の話だが、少し後味が悪い。
「花、散ったあと」は末期がんになった友人を訪ね、頼みごとを託される話。
この作家は昭和のノスタルジックな部分を絶妙に切り取る。
また、話のひねりも効いていて、短編は巧い。ハズレのない作家だ。


あした咲く蕾 (文春文庫)

あした咲く蕾 (文春文庫)