身の上話

作者:佐藤正午光文社文庫
地方都市の書店で働くミチルは、不倫相手の逢瀬の余韻のままに、東京に出てくる。
飛行機に乗る前に、同僚に頼まれた宝くじを買うが、この宝くじが2億円の当選くじとなる。
不倫相手には頼らず、幼馴染の家に転がり込み、宝くじの当たりを隠そうとする。
ところが、婚約者面をした地元の男が訪ねてきて、居合わせた女性が殺害してしまう。
殺人を最初からなかったものとするために、東京の郊外に死体を遺棄することになる。
この状況を語っているのは、ミチルの夫なのだが、最終章まで何者かは判明しない。
2億円が当たっていることを隠すために、ミチルはさらに犯罪を重ねる。
夫と出会う頃には、逃げることに疲れてしまっていた。
ストーリーテラーの夫との間に子供も生まれ、これで大団円かと思うと、さらに一ひねりがある。
不安定なまま話が進むが、この作家の語り口は上手い。
「永遠の二分の一」「リボルバー」「童貞物語」は20年以上前に読んだ作品で、今でも印象に残っている。
その後も作家を続けているのは知っていたけど、久々に読んでみると面白かった。
ストーリー展開に加え、会話主体の文章もいい感じだ。
高額宝くじの当選者に配布される「その日のために」をベースに想像力がふくらむ作品だ。


身の上話 (光文社文庫)

身の上話 (光文社文庫)