この胸に深々と突き刺さる矢を抜け(上・下)

作者:白石一文講談社文庫
週刊誌編集長のカワバタは政権与党幹部のスキャンダルを記事にした。
カワバタは数年前から胃ガンを患っている。
国立大の助教を勤める美しい妻と小学生の娘がいるが、妻とはセックスレス
編集長の権限を利用し、グラビアアイドルで性欲を発散させている。
ガン病棟で親しくなった友人の死。出版社内の人事権の争い。政治家からの圧力。
カワバタは他人事のようにやり過ごすが、今の世の中に対する根本的な不満があふれてくる。
格差社会、死を迎えることについて。
この作品は、引用が非常に多い。
宇宙飛行士が宇宙から地球を見たことで、宗教観はどう変わったか。
プレイボーイによる、レイシストの経済評論家へのインタビュー。
カワバタの死生観とは脈絡なく、引用は続く。
ストーリーはあるが、カオスな雰囲気に満ちた不思議で観念的な作品。
メジャーリーグに行った日本選手が10億以上の年俸を手にしていることに疑問を投げかけている。
野球をやっているだけでこんな経済的価値があるのか?
それは、言われてみればその通りなのだが、世帯収入で3千万近いカワバタが主張するのはおかしい。
突っ込みたくなるところはあるけど、格差社会の矛盾は上手く炙りだしていたと思う。
カワバタの思考をつらつらと書きなぐった思弁小説で、迫力は伝わってくる。


この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上 (講談社文庫)

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上 (講談社文庫)