化身

作者:宮ノ川顕|角川ホラー文庫
第16回日本ホラー大賞受賞作。3つの中編を収録。
「化身」は大賞の受賞作品。
日本に倦んだ男性が、一人で南の島に旅行に行き、ジャングルを散策中に池に転落する。
その池は地上から10メートルほど垂直に落ち込んでおり、自力では脱出できなかった。
池の中央にある中州で、途方に暮れる男だが、次第に状況に適応していく。
それに伴い彼の体は徐々に変化していく。淡々とした描き方で怖さも絶望もあまり感じない。
でも、その状況の表現力は素晴らしい。
雷魚」は田舎の小学生が、町はずれの池で雷魚を釣ろうとしていると、若い女性に出会う。
雷魚を釣り上げたいという欲求は、次第に女性と会いたいということに代わっていく。
そのころ、口裂け女が町で目撃されるという噂が広がっていた。
幽霊譚だが、すっきりとした内容となっている。
「幸せという名のインコ」は北関東でデザイン事務所を営む男の話。
バブルのころに独立したデザイナーは、その後の不景気で、娘の進学資金にも苦労していた。
それでも家族で乗り切ろうと、娘のリクエストでオカメインコを飼うことにする。
ハッピーと名付けられたインコは家族に安らぎを与え、男も希望を見出す。
景気は一向に良くならず、男の収入も危険水域に近づいてくる。
ハッピーは男に「イサン」と話しかける。すると母が無くなり、遺産を相続した。
男はその金で、株のトレードに手を出し、ハッピーは助言するようになる。
株で利益を出し始めた男は、妻の助言を無視して、デザインの仕事から遠ざかる。


大賞を受賞した「化身」は面白かったが、「雷魚」と「幸せという名のインコ」はもっと面白い。
作風は異なるが、朱川湊人のデビュー作を読んだ時の雰囲気に似ている。
ストーリーの面白さと表現の豊かさは単なるホラー作家の枠にはとどまらない。
今後の作品には注目したい。


化身 (角川ホラー文庫)

化身 (角川ホラー文庫)