間宮林蔵

作者：吉村昭｜講談社文庫
幕末の探検家で隠密でもあった間宮林蔵の生涯を描いた作品。
冒頭、蝦夷地の測量に訪れていた林蔵は、ロシアの軍船の襲撃に会う。
林蔵は闘うことを主張するが、代官は逃げることを決めた。
闘わずして逃げた役人たちにはそれぞれ処分が下り、林蔵も江戸に送られる。
汚名をそそぐために、樺太の測量に名乗りを上げる。
当時、西洋では海図の作成が進み、樺太だけが唯一空白の地域となっていた。
樺太は島なのか、半島なのか。
林蔵はアイヌを雇い、樺太に上陸し、測量を開始する。
雇ったアイヌさえも尻ごみする土地で、林蔵は地元の部族と溶け込み、大陸まで足を延ばす。
樺太が島であり、ロシアの勢力がおよんでいない土地であることを確認する。
幕府に報告した林蔵は、一躍時の人となるが、その後は隠密活動を命じられる。
各地の密輸入やシーボルトが日本の地図を持ち帰ろうとしたことを暴き、幕府から重用される。
一方で、先進的な技術を取り入れようとする蘭学者たちから密告者と忌み嫌われるようになる。
時の要人と付き合いながらも、林蔵は妻帯もせず、孤独な老後を迎える。

樺太の探検の描写は迫力があり、面白い。
これだけでも十分なのだが、その後の林蔵が、必ずしも幸せではなかったことも描かれている。
波乱万丈の生涯を淡々と綴っていて、読みやすかった。

新装版 間宮林蔵 (講談社文庫)