海も暮れきる

作者:吉村昭講談社文庫
大正時代に活躍した俳人の尾崎放哉の晩年を描いた作品。
放哉は帝大を卒業し、一流会社の要職にあったが、酒におぼれて、職を辞す。
妻とも別れ、流浪の俳人として、日本各地を漂泊する。
40歳になるころに肺を病み、パトロンのつてを頼りに小豆島に移住する。
金がなく、生活に困窮しながらも、酒を飲み、酩酊したあげく、周りの人に罵声を浴びせる。
翌日は、後悔に苛まれ、お詫びの文書をしたためる日々。
この地を終の棲家と決めた放哉の悩みながら衰えて行く様子を克明に描写している。
俳人としての足跡より、病に倒れたさびしがり屋が精いっぱいの足掻き。
痛々しくもあり、滑稽で、放哉の息苦しさが伝わってくる。
惨めな死も、死んでしまえばそこで終わり。
決して面白いわけではないが、何だか考えさせられる作品。


新装版 海も暮れきる (講談社文庫)

新装版 海も暮れきる (講談社文庫)