Y氏の妄想録

作者:梁石日幻冬舎
37年間勤めた会社を定年退職したY氏。
送別会を途中で抜け出し、行きつけのバーで飲み、その後、ぼったくりに引っかかる。
家に戻っても、妻からは冷たい言葉を浴びせられ、息子も娘にも無視される。
再就職の口もなく、新宿に出ては、日中から酒を飲む日々。
そんなY氏だが、若いころにもしかしたら人を殺したかもしれないという経験があった。
酒を飲むと、その経験を思い出し、現実との境が失われていく。
Y氏の娘はデートクラブ勤務で、浪費癖があり、複数の男性と性交渉を持っていた。
Y氏の息子は露出やスカトロ系のビデオを撮影し、金を稼いでいた。
Y氏の味気ない定年後と、二人の子供たちの刹那的な生活が交互に描かれる。
やがてY氏は本格的に精神を病み、息子は婦女暴行事件で追われる身となる。


被害妄想の塊のようなアル中親父に、どうしようもない子供たち。
それぞれの置かれた立場は根本敬の「村田藤吉」シリーズのようで、暗い。
救いようのないストーリーは面白いのだが、単行本で200ページの長さは中途半端だ。
この作家は「夜を賭けて」「族譜の果て」「血と骨」以降、面白い作品はない。
これら3作を読んでおけば、もう十分なのだろう。

Y氏の妄想録

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