錨を上げよ(上・下)

作者:百田尚樹講談社
単行本で上下巻合わせて1200ページを超える大作。
昭和30年に大阪の下町で生まれた作田又三の半生を描いた昭和の話。
小学校のころのごんたくれから中学に上がり、不良になり、どうしようもない高校に入学。
バイクに夢中になり、夏休みを利用して、国内旅行をするが、おかしな集落でトラブルに。
何とか高校を卒業し、スーパーに就職するが、心機一転、大学を目指す。
元々の頭は悪くないので、同志社大学に入学する。
この時点で、作者の自伝かと思った。
同志社大学に入ってからは、付き合う女性によって、方向性がフラフラしはじめる。
行き場を失った又三は、大学を中退し、東京に出てくる。
六本木で外国人と喧嘩をしたり、右翼団体に参加するが、レコード店で真面目に勤務する。
そこで出会った女子大生と真剣に恋をするが、女性に振られてしまう。
又三は、傷心のまま北海道に渡り、北方領土の領海で、ウニの密漁を始める。
このパートがこの作品で一番盛り上がる。
北海道で夢破れた又三は、大阪に戻り、結婚をして、放送作家になる。
再び、これは作者の自伝なのかと思う。
放送作家として、成功の足がかりをつかみ始めたが、再びトラブルに巻き込まれる。
最終章ではタイに流れ着くのだが、自伝に創作をミックスしたのかなと思った。
章の頭の哲学的なモノローグ。それぞれの章での又三の活躍は面白い。
長さを感じさせない面白い小説だった。今までの作品同様、百田尚樹の面白さはこの作品でも続いている。
でも、自伝かと思わせた時点で、少し引きながら読んでしまったことも事実。
又三の赤裸々な描かれ方が、作者の生き方をトレースし、さらにフィクションとして誇張しているのだとしたら、醒めてしまう。

錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)

錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)