夢顔さんによろしく

作者:西木正明|集英社文庫
戦時中の総理大臣の近衛文麿の長男の生涯を描いた作品で、柴田錬三郎賞受賞作。
近衛文隆は近衛文麿の長男として生まれ、不自由なく育ち、満州国ができた翌日に渡米する。
プリンストン大学に入学するが、ゴルフに熱中し、金持ちの未亡人と浮名を流す。
大学を卒業できず、総理大臣となった父に日本に呼び戻され、総理補佐官となる。
尾崎秀美やリヒアルト・ゾルゲと知り合いになり、親交を深める。
日本は中国に侵攻し、陸軍は徹底的に国民政府を打ち破るつもりだった。
近衛首相は、中国との和解を望み、文隆を中国に派遣する。
戦地を見るにつけ、こう着状態を感じた文隆は、蒋介石への接触を試みる。
そこで出会ったテンピンルーという中国女性と恋仲になり、結婚を約束する。
だが、中国での派手な活動が軍部の不興を買い、文隆は華族でありながら、一般兵として召集される。
満州の砲兵団に配属され、順調に階級を上げていくが、終戦と同時にソ連の捕虜となる。
首相の息子ということで、ここから長い抑留生活を余儀なくされる。
文隆の明るい性格は、同じ抑留者の希望となるが、社会主義ソ連の中で禁固25年を宣告される。
何とか生きて日本に戻ろうとする文隆たち。抑留生活も10年を経て、ようやく日本との文書の交信が許可される。
家族にあてた手紙には「夢顔さんによろしく」と結ばれていたが、誰のことか理解する者はいなかった。


歴史に埋もれてしまった人物の生涯を掘り起こした長編小説で、読み応えがあった。
前半のアメリカや上海での活躍で、どうなるのかと期待をしたが、後半は陰鬱な捕虜生活。
そのギャップは大きく、読むのがつらくなるが、近衛文隆というあまり知られていない人物の伝記は面白かった。