それぞれの断崖

作者:小杉健治|集英社文庫
コンピュータ会社に勤める恭一郎は、中学生の息子の家庭内暴力に悩まされていた。
仕事では社内の力関係で、取引先に重大な迷惑を与え、やりきれない日々を送っていた。
そんな中、息子が何者かに刺殺されるが、恭一郎はその時、怪しげな風俗の店でうっぷんをはらしていた。
殺人事件の調査は難航し、恭一郎のアリバイに疑惑の目が向く。
結局、息子を殺害したのは、同じ中学校の生徒だったが、風俗の店への出入りが家族にばれてしまう。
家庭崩壊に瀕し、恭一郎は息子殺害の犯人に向けた手記を週刊誌で発表するが、裏目に出てしまう。
人権派の弁護士から手厳しい反論が展開され、批判の矢面にさらされる。
「家族を顧みずに、息子を非行に走らせ、挙句の逆恨みはおかしい」
会社からは出勤を控えるように指示され、妻と娘は家を出て行ってしまう。
絶望した恭一郎は、息子を殺した犯人の母親に接触を試みる。
だが、偽名を名乗り、母親のはつみに実際に会うと、激しく惹かれてしまう。


少年法が改正される前の98年に書かれた作品で、酒鬼薔薇事件に触発された内容だが、面白い。
息子を殺された父親が、行動のまずさから、家族や会社から背を向けられる転落っぷりはスリル満点。
絶望から酒におぼれ、犯人の母親はつみに恨みをぶつけようとしてのどんでん返し。
裏目裏目に出る恭一郎の行動は、作品の中では批判にさらされるが、自分には恭一郎に共感を覚えた。
読みごたえは十分。話題になっていないのが不思議なくらい。

それぞれの断崖 (集英社文庫)

それぞれの断崖 (集英社文庫)