三年坂 火の夢

作者:早瀬乱講談社文庫
第52回江戸川乱歩賞受賞作。
20世紀目前の明治時代中期の東京。火事が起きるたびに町の多くが焼失していた。
火事が起きる直前に人力車の車夫が目撃され、彼が火をつけて回っているという噂が流れた。
その数年後、帝大生の兄が腹を負傷し、「三年坂で転んでね」という言葉を残し、死亡する。
弟の実之は、失踪した父と死亡した兄の死因を調べるため、上京する。
一方、予備校講師の高嶋と立川は、東京の火事の原因に帝都転覆計画があると予想し、調査を始める。
実之の行動は「三年坂」、高嶋の思考は「火の坂」に収録され、交互に物語は進む。
クライマックスで実之と高嶋は邂逅するが、そこでどんでん返しがあった。
乱歩賞というミステリーなのに、殺人より、何のために放火するのかという主題が真新しい。
電気などライフラインが整備されず、鉄道網もこれからという薄暗い東京を舞台にしたミステリー。
近代化する直前の明るさと文明開化以前の暗闇が融合され、妖しい雰囲気が満ちている。
推理小説としての謎ときの部分は少し弱いが、馴染みのある坂が出てきて、身近に感じることができた。
ここに出てくる坂はほとんど知っているので、ドキュメンタリーを見ているようだった。

三年坂 火の夢 (講談社文庫)

三年坂 火の夢 (講談社文庫)