白い夏の墓標

作者:箒木蓬生|新潮文庫
今から30年前に発表された、作者のデビュー作で、本格的な医療サスペンス。
免疫学を研究している佐伯教授は、パリで講演後、ベルナールという老人から声をかけられる。
「ドクター・クロダをご存じか?」
佐伯はすぐにはピンとこなかったが、昭和20年代の後半に研究をともにした黒田のことを思い出す。
人嫌いだが、着想が素晴らしく、米軍にスカウトされ、アメリカに旅立って行った。
だが、その2年後、交通事故で亡くなったと聞いていた。
ベルナール老人は黒田の墓が、フランスとスペインの国境にあるという。
そこで墓守をしている婦人にあって欲しいと、依頼を受ける。
黒田の本当の死因を知るために、佐伯はフランスの南方へと旅立つ。
複雑な家庭環境と、米軍による生物兵器開発に従事させられた黒田の足跡が次第に明らかとなっていく。
過酷な運命の中、自ら命を絶った黒田と、彼の恋人の看護婦の行く末を描いた悲劇。
この作家は読ませる作品を書く。しっかりとしたストーリー展開とともに、その片鱗をデビュー作でも十分に感じた。
ただ正直なところ、古臭さは拭えない。

白い夏の墓標 (新潮文庫)

白い夏の墓標 (新潮文庫)