向日葵の咲かない夏

作者:道尾秀介新潮文庫

  • 文庫本裏書き

夏休みを迎える終業式の日。
先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。
きい、きい。妙な音が聞こえる。
S君は首を吊って死んでいた。
だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。
一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。
「僕は殺されたんだ」と訴えながら。
僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。
あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。

  • 感想

少年と老人の視点から描いた、いびつな世界を舞台にしたミステリ。
まず主人公のミチオがかなり不安定で、3歳の妹のミカは妙に大人びている。
母親は過去にでかしたことで、ミチオを憎悪している。
S君の死体が見つかる前、近隣では犬や猫が殺される事件が連続して発生していた。
足を逆方向に折られ、口には石鹸が入れられるという共通点があった。
ミチオは終業式を欠席したS君に夏休みの課題を届けに行くが、そこで見たのはS君の首つり死体。
S君はある昆虫となり、ミチオの前に現れ、担任の先生を告発する。
先生の犯罪を暴くため、昆虫となったS君とミカとともに調査を始める。
一方で、近隣にすむ老人の泰造は、S君の死の直前にある物音を聞いていた。
死んだ友人が、昆虫になって姿を現すというありえない展開だが、不思議に違和感はない。
それは、最初からミチオを取り巻く状況が不安定で、危うささえ感じさせるからだ。
ミカと母親の描かれ方も何かがおかしい。謎をはらんだまま、ストーリーは進むが、読みやすい。
結末に近づくにつれ、それらの謎が明らかになっていくが、衝撃的だった。
ミステリでこんなのありかと思うが、自分はすんなりと受け入れることができた。
全編に漂う雰囲気はあまり好きではないが、それでも、この作家の力量を示す小説だと思う。

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)