大黒屋光太夫(上・下)

作者:吉村昭新潮文庫

  • 文庫本裏書

天明2年(1782)、伊勢白子浦を出帆した回米船・神昌丸は遠州灘で暴風雨に遭遇、舵を失い、七ヶ月後にアリューシャンの小島に漂着した。
沖船頭・光大夫ら十七人の一行は、飢えと寒さに次々と倒れる。
ロシア政府の意向で呼び寄せられたシベリアのイルクーツクでは、生存者はわずか五人。
熱い望郷の思いと、帰国への不屈の意志を貫いて、女帝エカテリーナに帰国を請願するが・・・。

  • 感想

10年にわたる苦難の末、ロシアから帰国した大黒屋光太夫一行の苦難の物語。
北方の島まで流され、漂着した島で飢えに苦しみ、徐々に乗組員が死に始める。
ロシア本土に上陸し、住民たちの助力により、バイカル湖の近くのイルクーツクまでたどり着く。
この時点で、乗組員は5人まで減っていた。光太夫達に救いの手を伸ばしたのは、キリロという富裕な学者だった。
キリロは何度も光太夫達の帰国を促す請願書を出すが、取り合ってもらえず、ついに光太夫をつれ、女帝に会いに行く。
エカテリーナに面会した光太夫は、帰国の想いを切々と話し、ついに帰国の許可が下りる。
言葉の通じない現地人たちと交流し、ロシア語を覚えていく光太夫達のたくましさはいい。
また、言葉を覚えるにつれ、帰国は絶望的だと悟り、キリスト教に帰依する乗組員。
凍傷で片足を失い、同じくキリスト教にすがった乗組員。
帰国の許可が出た時に、禁教に帰依した彼らに別れを告げるシーンは、胸に迫る。
帰国できたのはわずか2名。彼らのその後は淡々と描かれるが、何となく物悲しい。
キリロの高潔な人柄と、乗組員たちそれぞれの葛藤など、読み応えがあり、非常に面白かった。
この作者の作品はハズレはないが、これは最高の作品の一つだと思う。
キリロと、足を失った庄蔵や、明るい磯吉などの人物描写が素晴らしい。

大黒屋光太夫(上) (新潮文庫)

大黒屋光太夫(上) (新潮文庫)