月への梯子

作者：樋口有介｜文春文庫

• 文庫本裏書き

知能は小学生程度だが、死んだ母親が遺してくれた小さなアパート「幸福荘」の管理人として、平和に暮らしていたボクさんこと福田幸男、40歳。
ところがある日、アパートで殺人事件が起きたことをきっかけに、ボクさんとその周辺に、驚くべき変化が起こりはじめる。
哀切に満ちた長編ミステリー。

• 感想

ボクさんは知能が低く、予定表が手放せないが、それでもアパート管理の仕事を忘れることがあった。
近くの総菜屋には、ボクさんと同じ年で出戻りの京子がいて、彼女と話すのが楽しみだった。
アパートの住民は６名で、少し癖のある人もいたが、ボクさんには好意的だった。
だが入居者の水商売の中年女性が、鍵のかかった自室で殺害され、屋根の修理をしようとしたボクさんは窓の外から目撃してしまう。
その拍子に梯子から落下したボクさんは、意識を失ってしまう。
数日後、病院で目覚めたボクさんは刑事から、他の住民が失踪してしまったことを聞かされる。
また、殺害された女性以外は、すべて偽名だったことも判明する。
一方、頭を怪我したボクさんは覚醒し、知能を取り戻していく。
ボクさんは一人で調査に乗り出し、一人ずつ身元を明かしていき、犯人に近づいていく。
ウスノロのボクさんが急にスイッチが入ったように切れ者になっていく様は面白い。
悪くはないのだけど、ラストにかけてのどんでん返しは悲しいし、後味の悪さが残った。

月への梯子 (文春文庫)