彰義隊

作者：吉村昭｜新潮文庫

• 文庫本裏書き

皇族でありながら、戊辰戦争で朝敵となった人物がいた。
上野寛永寺山主・輪王寺宮能久親王は、鳥羽伏見の敗戦後、寛永寺で謹慎する徳川慶喜の恭順の意を朝廷に伝えるため奔走する。
しかし、彰義隊に守護された宮は朝敵となり、さらには会津・米沢・仙台と諸国を落ちのびる。
その数奇な人生を通して描かれる江戸時代の終焉。
吉村文学が描いてきた幕末史の棹尾を飾る畢生の長編。

• 感想

タイトルは彰義隊だが、彼らの活躍はほとんど描かれず、輪王寺宮能久親王の生涯を描いた作品。
朝敵となった皇族がいたことは知らず、非常に興味深かった。
江戸の町を守りたいために、朝廷軍に話し合いを求めた宮が、そっけなく拒絶され、絶望し、彰義隊に同調。
結果、朝敵となり、江戸を逃れ、北方に向かおうとするが、詮索は厳しく、江戸から脱出するのに苦心する。
宮に仕える僧侶や武士、町民たちの献身的な行動がスリリングだ。
また、海軍奉行の榎本武楊や、かつての老中たちとの交流も面白い。
「長英逃亡」や「天狗争乱」もそうだったが、逃れるために流浪する人々の姿を丁寧に描いている。
幕末小説は朝廷や薩長側から書かれたものが多いが、滅びる側の視点で書かれたこの作品は魅力がある。
幕閣の人たちの維新後の消息や、宮が軍人となり、南の島で没するまでの数奇な運命がつづられている。
これは良い歴史小説だ。吉村昭は今更ながらだけど、ハズレがない。

彰義隊 (新潮文庫)