タッチアップ

作者:田澤拓也エクスナレッジ
弱小県立高校が甲子園を目指す野球小説。
神奈川県の北桜高校は40年前に甲子園で準優勝をしたことがあったが、近年は低迷していた。
ところが、左腕ピッチャーの伊達と捕手の宮武など、近辺の有力選手がこぞって入学する。
彼らはドリームボーイと呼ばれ、2年生の秋季大会に限りなく甲子園に近づく。
だが、エースの伊達が肩を壊し、経験豊富な監督の楠も大阪の有力私立高校に引き抜かれてしまった。
その後は練習に出なくなった部員もおり、監督は不在で、3年を迎えた頃にはどん底になっていた。
部長の役を押し付けられた美術教師の真壁は、ある日河川敷の球場で快速球を投げる少年と出会う。
彼は前年に福知山から北桜高校に転校しており、母子家庭の家計を助けるため、新聞配達をしていた。
真壁はその少年、吉沢を野球部に誘い、部員達の前でピッチングを披露する。
ノーランライアンのようなフォームから150キロを計測した球速に部員達は驚き、吉沢を部に誘う。
だが、吉沢はなかなか首を縦に振らず、彼の叔父や妹を通じてようやく入部にこぎつける。
吉沢はピッチングには素晴らしいものがあるが、部員とは溶け込まず、バッティングはまったくダメだった。
また牽制球もできず、ちぐはぐな吉沢の身体に異変があることに気づいたのはかつてのエース伊達だった。
チームがバラバラになりそうな場面もあったが、県予選から快進撃を続ける。
一敗もできない状況の夏の大会はそれだけで舞台は十分で、吉沢の内面の暗さの謎とともにスリリングに進む。
テンポがよく面白かったが、キャラクターの描き方にムラがあったのは残念。
伊達や1番バッターの高気圧、2番バッターのガッキー、補欠のフィンランド人のキートスの描写は丁寧だった。
でもキャプテンの宮武や3番バッターの西岡は活躍しているのに、イマイチ伝わってこない。
それと試合の決着寸前で終わるラストシーン。野球小説はゲームセットのその後まで描いて欲しいと思う。
あとは表紙の地味さというか、野暮ったさ。昔の道徳の教科書のようで、これではあまり売れないような気がする。
良い小説だけど。
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