弥勒の掌

作者:我孫子武丸|文春文庫
高校教師の辻は、教え子に手を出し、妻とは冷え切った仲になっていた。
ある日、家に戻ると、妻の姿がなかった。自分に愛想をつかせたのだろうと肩の荷が下りた気でいた。
そんな辻の下に警察が訪れる。妻に対して誰かが捜索願を出したらしい。
妻の失踪に疑いの眼を向けられた辻は、独自で妻を探し始め、「弥勒の掌」という宗教団体に行き着く。
一方、刑事の蛯原は、汚職の疑いを向けられている最中、妻を殺害される。
実際に蛯原はヤクザに捜査情報を流しており、人事一課の取調べがすぐそばまで迫っていた。
一旦疑いの眼をそらした蛯原は、妻を殺害した犯人を単独で探し始める。
妻の持ち物の中に、「弥勒の掌」の仏像を発見し、教団本部に乗り込んだ蛯原は、同じ境遇の辻に出会う。
二人は共同で、「弥勒の掌」を監視し、調査を始める。
教師と刑事の視点で交互に話は進むが、最終章でどんでん返しの結末を迎える。
我孫子武丸の小説を読むのは久々で、面白かったが、「殺戮に至る病」ほどの驚きはなかった。
また、新興宗教をモチーフにしているところは、貫井徳朗の「慟哭」には及ばない。
それでも、宗教に取り込まれていく描写の不気味さは十分堪能できた。
オビに書かれている『驚愕の真実!』という言葉が、実はたいしたことでもなく、この作品をがっかりさせるものにしている。
オビの裏を読まなければ、もう少し楽しめただけに残念。

弥勒の掌 (文春文庫)

弥勒の掌 (文春文庫)