極点飛行

作者:笹本稜平|光文社文庫
南極と南米大陸を舞台にした冒険小説で、これは非常に面白く、作者の代表作になると思う。
主人公の桐村は、南極で物資輸送をするパイロットだが、かつて日本の航空業界を追い出された過去を持つ。
クリスマスの日、南極で定期運行中の桐村の下に、南極基地で重傷を負った人物を搬送して欲しいと指示が出る。
負傷したのはチリ有数の実業家でアイスマンと異名をとる日系人のシラセだった。
シラセはチリが保有する南極基地の実質的な保有者で、部下を使い、ある調査をしていた。
シラセを搬送中、国籍不明の飛行機に襲われ、シラセの部下が死亡する。
シラセ達は南極に眠るナチスドイツが隠した大量の金塊を発掘しようとしていた。
だが、その金塊はチリの独裁者のピノチェトや南米に巣くうナチスの残党も狙っていた。
桐村はシラセの姪のナオミに惹かれ、行動を共にするようになるが、直後から危険に晒されるようになる。
南米の墓地や湖畔での銃撃戦。南極大陸での裏切り劇や心理戦と、幾度も訪れる危機。
話の展開はスピーディで、登場人物も多いが、キャラクターの造詣がいいので、まったく飽きさせない。
これだけでも十分なのだが、ナチスの金塊伝説を裏付ける材料として、ドイツ人将校の手記が登場する。これが非常に感動モノだ。
ナチスに騙され、南極大陸に置き去りにされてしまった将校とユダヤ人労働者達の話。
荒れ狂う南極の海から廃船で脱出するシーンは、一つの独立した小説としても十分の迫力だった。
太平洋の薔薇」と並ぶ傑作。

極点飛行 (光文社文庫)

極点飛行 (光文社文庫)