8年

作者:堂場瞬一集英社文庫
30歳を過ぎた投手が、エクスパンションで新たにできたニューヨークの球団で活躍する話。
オリンピックで華々しい活躍をした藤原は、病気の子供を抱えていたため、プロ入りを断念した。
病気の子供を失い、妻との関係がぎくしゃくした藤原は、8年後、30歳を過ぎてから海を渡る。
エクスパンションで誕生した球団のオーナーは、日本のベンチャー企業の実業家だった。
日本の有望な選手をかき集め、メジャーで勝負するという野望があった。
藤原はそんな状況の中で、それほど期待もかけられずに入団した。
だが、野球から離れていたブランクと、ぶっきらぼうな性格が災いし、3Aのチームに送られる。
そこで、甲子園のスター選手で、メジャーリーガー顔負けの豪快な打棒を持つ常盤という少年と出会う。
彼はすぐにでもメジャーの試合に出ることができそうだったが、キャッチングに難があった。
内角攻めをした際に、対戦相手の顎を破壊してしまい、それから内角球が捕球できなくなっていた。
3Aの試合の合間に、堂島を鍛える藤原だったが、低迷するチームから声がかかる。
先発完投型の藤原だったが、快速球を買われ、ストッパーとして起用される。
藤原の活躍と同時に、チームも機能し始め、常盤もメジャーに昇格する。
初年度の球団が5割でシーズンオフをむかえる快挙の直前、藤原はオーナーと衝突する。
その様子を全米のメディアが取り上げ、藤原は放出寸前となる。
野球小説は意外に少ないのはいつも不思議に思うが、これはテンポも良く、面白かった。
藤原の造詣が平坦なのが残念だが、周りのチームメイトや3Aのスタッフの熱さがいい。
野球を本当に愛するスタッフと、商売のタネにしか考えないオーナーと板ばさみになるGMも味があった。

8年 (集英社文庫)

8年 (集英社文庫)