ただ去るが如く

作者:香納諒一|角川文庫
橋爪優作は大阪でヤクザをしていたが、5年前に内部抗争の末、幹部を殺害し、大阪を離れる。
優作は北陸の海辺の町で所帯を持ち、青果市場で働き、一見平和に暮らしていた。
だが、元タンカー乗りの万田という老人と組み、表ざたにできない金を強奪するという裏の仕事も持っていた。
ある日、京都の祇園で闇献金の金を強奪したが、現場を旧知の実業家の滋子に目撃されてしまう。
滋子から仕事を持ちかけられるが、妻を死産で失った優作は、やる気が起こらなかった。
その後、かつて所属した石和組の対立組織の共和会が殺し屋を雇い、滋子を殺害する。
直後に優作と万田は、滋子の会社で働く、空手使いの青年の充と石和組の組長の娘のちづると出会う。
滋子が持ちかけてきた仕事は、舞鶴港で取引される不法投棄のゴミの謝礼3億円の強奪。
4人はチームを組み、強奪計画を実行するが、優作のかつての相棒や舎弟が絡んできて、窮地に陥る。
酒と薬で身を持ち崩し、フリーの冷酷な殺し屋となった、かつての相棒の市川。
共和会でインテリヤクザの伊坂に利用される、かつての舎弟の中根。
舞鶴で、3者入り乱れて、銃撃とカーチェイス、激しい強奪戦が展開される。
この小説は主人公の優作だけではなく、万田、充、ちづる、市川、中根などの主要人物の視点から描かれる。
一見慎重に見えるが実はおしゃべりの万田や、がさつだが憎めない空手家の充など、人物造詣も非常に巧みだ。
文庫本で600ページを超える長編で、前半は少し冗長な感じがしたが、4人が出会うところから俄然面白くなる。
結末の苦さもいかにもハードボイルドだ。良い作品を書く作家だと思う。