雨の匂い

作者:樋口有介|中公文庫
大学生の柊一は癌で入院中の父と、家で寝たきりの祖父の介護をしていた。
新宿百人町の一軒家で、少し生活に倦みながら、柊一は穏やかに暮らしていた。
そんな彼の元に、離婚した母親が父親の保険金を課して欲しいとやってくる。
また、近所の老人のおせっかいで、ペンキ塗りの仕事に駆り出される。
行きつけの飲み屋で自傷壁のあるAV女優と知り合い、少しずつ変化が現れる。
不審な放火事件、母親の自殺など、柊一の周りには次第に不審な出来事が発生する。
ミステリーの体裁をとっているが、梅雨空の下、柊一の揺れ動く心情を描いた青春小説だ。
バックパッカーの志万さんや、医学部を目指す女子高生の綾夏との会話が面白い。
何より、柊一が毎日祖父に作る料理がおいしそうで、また自炊をしたくなった。
ストーリーの面白さより、雰囲気を味わう作品だ。こういう本も悪くない。

雨の匂い (中公文庫)

雨の匂い (中公文庫)