蒼煌

作者:黒川博行|文春文庫
芸術院会員の座を狙う日本画家の室生は、選挙権を持つ会員に露骨な接待攻勢に出る。
現金を渡したり、古美術を送ったりするが、ライバル稲山の動きが気になって仕方が無い。
室生は、弟子の大村をこき使い、京都の画商の殿村を選挙参謀に据え、さらに露骨な工作を進める。
ヒラ会員には100万円、派閥の親玉には1000万円を超える献金をするが、当確までは至らない。
一方、ライバルの稲山は派閥の領袖という立場で仕方なく、会員に立候補しており、欲がなく対照的だ。
この物語で異彩を放っているのは、主人公の室生があまりにも人間的な魅力に欠けている造詣だ。
風采は上がらず、ケチで、下には威張り散らし、上にはへつらう。
人望はまったく無く、人は平気で裏切るくせに、腹も性根も座らない。
だが、画だけは素晴らしいものを描く。変人画家のままでいればいいのに、権力を欲しがる。
また弟子の大村の女たらしっぷりや、80歳を過ぎた殿村の策士としてのキャラクターも良い。
政治画商、政治家秘書、大学教授、元政治家を巻き込み、選挙戦は盛り上がっていく。
一見関係がなさそうな地方都市の工場のガス爆発から、市長、政治家の汚職が暴かれ、選挙戦が暗転する結末は面白い。
登場人物のほとんどが老人で、金と権威に群がる人間模様はとことん醜悪だが、滑稽でもある。
サスペンスでもコメディでもないが、不思議な魅力があった。