秋の牢獄

作者:恒川光太郎角川書店
「夜市」で衝撃的なデビューを飾った幻想作家の「雷の季節の終わりに」に続く3作目。
この本には3篇の中篇が収録されている。いずれも現実と幻想の間を描き、美しい。
表題作の「秋の牢獄」は、11月7日を繰り返し、生きる女子大生を描いた物語。
藍はいつものように大学に通うが、日付が11月7日から変わらないことに気づく。
同じ会話を繰り返す友人や、大学の講義に嫌気が差していたところ、同じ状況にいる人たちに出会う。
どうすれば、11月8日を迎えることができるのかと考えているところに、「北風伯爵」が現れる。
「北風伯爵」に魅入られた仲間は姿を消してしまう。11月8日に行ったのか、死亡したのかはわからない。
繰り返しの日常に飽きた藍たちは日本中を旅するが、仲間は1人ずつ抜けていく。
「神家没落」はほろ酔い加減で、いつもの帰り道に突然出現した民家に閉じ込められる「僕」の話。
翁の面をかぶった老人に後を託され、そのまま住み着くことになったが、家から出ることはできない。
2日ごとに違う景色の場所に家は移動しているようだったが、「僕」は前向きで、家の内装を変え、喫茶店にする。
そのうちに、客がやってくるようになるが、この世を儚んでいるような男に後を託し、「僕」は現実の世界に戻る。
その後、日本の各地で、人が失踪する事件が置き、その原因が後を託した男にあると「僕」は気づく。
男を捕まえるために、「僕」は先回りするが、そこには行方不明となった人たちの死体が転がっていた。
「幻は夜に成長する」は、魔法使いの祖母に育てられた少女の成長の話。
手の中の物をあらゆるものに変え、自身の姿を様々な動物に変えることのできる祖母に育てられたリオ。
山の中に住み、近所の人たちに差別され、家に放火され、新たな親に育てられることになったリオ。
リオの成長の中で、信頼できる周りの人たちに、祖母から習得した魔法を見せるが、否定されるか、気味悪がられる。
やがて、リオは何者かに幽閉されるが、心の中で飼い慣らした「怪物」を解放させる。
3篇目は今ひとつだったが、「秋の牢獄」と「神家没落」は面白い。
自分は前2作のインパクトが強くて、少し期待ハズレだったが、初めて恒川光太郎を読む人には十分面白い作品だと思う。
言葉のつながりは詩のようなリズム感で、そこにちりばめられた言葉はストレートに心に響く。
最近の作家では出色な個性で、これからの作品を楽しみにしたいと思う貴重な作家の1人だ。

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