虎の道 龍の門(上・中・下)

作者:今野敏|中公文庫
理想の空手を追求する武道家と極貧からのし上がったプロレスラーの成長を描いた小説。
南雲凱は北海道の炭鉱町で生まれ、両親を亡くしてから、上京するが、底辺にあえいでいた。
南雲は儲け話に騙され、ロシアで森林の伐採作業に送り込まれる。
極寒の地で、理不尽な扱いに堪えかねた南雲は、監督官を殴り飛ばし、逃亡する。
麻生英治郎は裕福な家庭に生まれ、幼い頃から空手を習っていたが、試合では結果が出せなかった。
空手の試合の判定に疑問を持った麻生は、フルコンタクト空手の師範代の黒木と出会い、研究会を発足させる。
4人で始めた研究会だったが、麻生の実家が建築するマンションに道場を構えることになった。
南雲は帰国後、新宿で浮浪者の暴動に巻き込まれるが、その体格を見込まれ、プロレス団体にスカウトされる。
プロレス団体のトレーニングを難なくこなした南雲は、すぐにでも金を稼ぐために海外に武者修行に出かける。
ロサンゼルス、ブラジルと転戦するが、南雲は負けなかった。だが金も稼げなかった。
麻生は空手の原点を求め、黒木と共に沖縄に旅立つ。そこで仲嶺という空手家と出会い、型の重要性を思い知らされる。
新たな空手に邁進する麻生だったが、パートナーの黒木が癌に冒され、死亡する。
それでも麻生は空手の研究を続け、徐々に門下生の数が増えていく。
素質のある門下生たちが対外試合に出場し、麻生の団体の名前は知れ渡っていく。
国内に戻っても無敗を誇った南雲だったが、十分なファイトマネーを稼げず、苛立ちから裂けに溺れていく。
意図しない形で有名になった麻生は、弟子が対外試合に出ることを苦々しく思っていた。
そんな二人が、興行に巻き込まれ、リングで闘うことになる。
かなり不思議な雰囲気を持った作品で、女性が全く出てこないし、汗臭さもまったく感じない。
金に執着を持つ南雲だが、ギラギラとした欲望を感じることは無いし、麻生にいたっては宗教家のようだ。
ストーリー、テンポがよく、面白く読んだが、人物描写に難があり、スリルが足りないように思った。
作者が空手道場を主宰していることもあり、空手寄りに描かれているが、リングの描写は良い。
特にクライマックスの戦いは面白い。

虎の道 龍の門〈上〉 (中公文庫)

虎の道 龍の門〈上〉 (中公文庫)