夏光

作者:乾ルカ文藝春秋
オール讀物新人賞』受賞のホラー短編集。ノスタルジックかつ耽美的な雰囲気が印象的だ。
表題作の「夏光」は、左半分を黒痣で覆われた少年・喬史と、疎開先で苛められる哲彦との交流を描いた話。
空襲が激しくなる中、哲彦は叔母の元に疎開し、そこで喬史という少年と仲良くなる。
喬史には身寄りがなく、寺に預けられていた。父は蒸発し、母はスナメリの死肉を喰らって、死んだという。
喬史は村の人たちから忌み嫌われているが、哲彦は喬史の不思議な魅力に引かれていく。
ふとしたときに、喬史の瞳に青い光が走るのを見た哲彦は、直後に周りの人が死ぬことに気づく。
苛めに堪えかねた哲彦は、喬史とともに夜行列車に飛び乗り、瞳の謎を聞くことになる。
翌朝、到着した母の住む街で、哲彦は今まで以上に青く輝く喬史の瞳を見る。
その直後に空襲警報が響く。
スナメリの死体の描写と、喬史の嫌われ方が哀れで、結末も救いがないが、よく出来た話だ。
「夜鷹の朝」は体調不調の学生が、教授の勧めで、札幌郊外にある道庁役人の邸宅で療養する話。
モダンな邸宅だが、人気がなく、学生は、そこでマスクをした少女に出会う。
家人に聞いても、そんな少女はいないと言われるが、学生は少女と交流を深めていく。
決して外そうとしない少女のマスクの下には、どんな可憐な口があるのか、学生は堪えられなくなる。
「百焔」は容姿端麗な妹を妬んだ姉が、ロウソクに願をかけ、妹の不幸を望む話。
願が叶うと、どんな災いとなるのかはわからないが、姉は100日間ロウソクを燃やし続けた。
その直後、自宅から火事が発生する。これは横溝正史の戦前の作品を強く連想させた。閉じた雰囲気がいい。
「は」は現代の話で、怪我で変わり果てた姿となった友人と、鍋を囲み、怪我の理由を聞く話。
食欲をそそる描写と、友人の怪我となった少し笑える理由と、オチの効きかたがいい感じだ。
マジシャンの父を持つ友人と過ごす夏を描いた「Out of This World」も、物悲しくて、朱川湊人のようだ。
「風、檸檬、冬の終わり」は東南アジアの女性の人身売買の話で、これは唯一、面白くなかった
オール讀物新人賞』って、あまり馴染みがないけど、面白い話を書く作家だと思う。
今年の「怪談文学賞」をとった作品より、内容がしっかりしていて、格段上だ。
表紙が雰囲気にマッチしていないので、そこは残念だな。

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