秋好英明事件

作者:島田荘司|文春文庫
昭和51年に北九州で起きた「一家4人惨殺事件」の犯人、秋好英明を題材にした大作。
秋好英明は太平洋戦争中に、満州で生まれるが、父親は徴兵に取られ、弟は死亡し、母と二人で日本に引き上げてくる。
苦難の末、たどり着いた日本に、秋好一家に手を差し伸べる人はなく、少年時代から秋好は悲惨な生活を送る。
母は結核に倒れ、幼い弟を抱えながら、秋好は懸命に働き、父の帰還を待った。
父が戻ってきても、生活は向上せず、弟は水死し、父も母も病死し、秋好は上京して、職に就く。
秋好は頭がよかったが、叱られると萎縮するという性格だった。このことが後の犯罪に影を落とすことになる。
東京で、職を転々とした秋好だが、ある日、社長の金を盗んだとして逮捕される。
警官による暴力で、秋好は罪を認め、前科一犯となる。
叔父を頼り、大阪に流れた秋好は、最初の結婚をする。
結婚した相手に当初から不満を持っていた秋好は、嫁の実家で放火事件を起こし、逮捕、収監される。
懲役を終えた秋好は、富江という年上の女性と出会い、親しくなる。
大阪で同棲生活を送り、富江と結婚を望むが、富江の実家に強硬に反対される。
卑屈な秋好に、富江の家族は辛らつな言葉を浴びせ、富江と別れるよう、強制する。
で、秋好は、富江の家族の前で自殺を決意するが、富江に唆され、富江の家族を殺害する。
この作品では富江が3人を殺害したことになっているが、現実は秋好が4人を殺害し、死刑判決が確定している。
作者は冤罪だと論じているし、この作品は悲惨な男の生涯を同情的に描いている。
800ページ近い長い作品だが、秋好の犯罪にいたるまでのプロセスには読み応えがある。
最終章の裁判はダレたが、読み応えがあり、1人の犯罪者を精密に描いた傑作だと思った。
読み終えたあと、秋好に対して同情的になるのは、作者の手腕だろう。

秋好英明事件 (文春文庫)

秋好英明事件 (文春文庫)