悪人

作者:吉田修一朝日新聞社
保険外交員の女性が殺害され、解体業の男が逃亡を続ける話。
こう書いてしまうと他愛のない話だが、非常に面白い小説だった。
短大を卒業し、福岡の生命保険会社に勤める佳乃は、会社の寮で暮らしていた。
佳乃は見栄っ張りで、出会い系にはまっているくせに、同僚をバカにしていた。
一方、解体業の祐一は、長崎で祖父母と暮し、車にしか興味の無い男だった。
出会い系のサイトで知り合った佳乃に会うために、車で福岡に向かった。
翌日、佳乃は死体で発見される。警察は当初、最初にナンパをした大学生を容疑者としていた。
大学生が逃走している間、祐一は佐賀在住の光代という女性と出会い系で知り合う。
光代は30歳になり、退屈な日常から逃れるための何かを探していた。
やがて、祐一は容疑者として手配され、光代を連れ、佐賀・長崎を転々とする。
光代は祐一を「もうおそらく出会うことができない人」と考え、積極的に逃走をリードする。
最後に無人灯台にたどり着くが、手持ちの金も尽きてしまう。
この小説が面白いのは、佳乃、祐一、光代に関係する人たちの証言と行動を上手く描いているからだ。
生い立ちが少し不幸で、田舎で燻っている人たち。妙にリアルで、実際に存在しそうな気がする。
健康食品を恫喝まがいで売りつけられる祐一の祖母。
出会い系による殺人として、娘の人格を否定されるような報道に憤る佳乃の父。
それぞれの登場人物の感情がストレートに伝わってくるが、描き方は淡々としている。
自分は「パレード」に匹敵する傑作だと思った。

悪人

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