まほろばの疾風

作者:熊谷達也集英社文庫
8世紀末の東北地方で、大和朝廷に反乱を起こした英雄アテルイの生涯を描いた物語。
当時の東北は蝦夷と呼ばれていたが、朝廷の支配が徐々に及ぶようになっていた。
稲作を行わない蝦夷の民は、主に狩猟で生計を立てていた。アテルイはそんな集落に生まれた。
少年時代に大和朝廷軍の襲撃を受け、ムラは焼き払われ、アテルイは捕虜となる。
朝廷の指揮官が父であったことを知ったアテルイは、父を激しく憎み、脱走の機会を伺う。
祭の日に支援者の手引きを受け、脱走したアテルイだが、暫く放浪生活を送る。
やがて、蝦夷の国を築くために、朝廷を欺き続けた父に合流したアテルイは反乱軍の果敢な先鋒となる。
父の死後、蝦夷の首長となったアテルイは、16年間に渡り、朝廷と激しい戦闘を繰り返す。
大和と対等な立場となるために、稲作を開始し、海を越えた渤海と交易を持とうと企てる。
だが、稲作を取り入れたことで、部族間で小さな対立が発生し、朝廷に付け込まれる隙ができてしまう。
満を持して、朝廷は坂上田村麻呂征夷大将軍に任命し、蝦夷の支配に乗り出す。
配下の武将を討ち取られ、劣勢に立ったアテルイは自分の命と引換えに投降する。
日本の古代を題材にした歴史小説はそんなに多くないが、辺境の民を描いた作品は初めて読んだ。
強弓を引いて、無敵のアテルイが初恋の女性を忘れられず、国を作るのは大和の体制と同じではないかと悩み、
非常に人間臭いヒーローとなっている。部下も魅力があり、面白かった。

まほろばの疾風 (集英社文庫)

まほろばの疾風 (集英社文庫)