八上康司

作者:森川史則|三一書房
1999年に東京の都心で、一晩で119人を殺した通り魔の話。当然フィクションである。
この本は、この事件を実際に起きたこととして扱い、犯人の八上康司の半生を振り返るところからはじまる。
埼玉県に生まれた彼は早熟で、身長は高く、頭も良かったが、受験に失敗し、明治大学に入学する。
ヘビメタとヒトラーに心酔した彼は「八上ノート」というイカレた思想を残し、大量殺人への導線となる。
日本刀やナイフで武装した八上は、隣人を殺害し、ショーがスタートする。
公園のカップル、制服警官、ラーメン屋の店員など、目に付く人を片っ端から殺害していく。
池袋から都心を暴れまわった八上は、夜明けの湯島で逮捕される。
殺害時に、ヘビメタやクラッシックの名曲が彼の頭の中で鳴り響いているのは、いかにもありそうだ。
その後、この事件が日本に与えた影響に言及し、「八上学」なる学問となり、識者たちの論文が掲載される。
最後に八上の獄中の手記が掲載される。この本はかなり前に読んだ本だが、強烈な印象が残っている。
119人を殺すという異常性だけでも小説の主題になるのだが、その事件から社会に波及したことまでを1本の小説とした。
その着眼点がよく、普通の小説の枠を超えていると思う。犯罪ドキュメントが好きな人にはオススメ。
ただ、今では普通の書店では、手に入りにくいかもしれない。

八上康司

八上康司