シリウスの道(上・下)

作者:藤原伊織|文春文庫
ビジネス・ハードボイルドと銘打たれた作品。この作家の小説は安定感がある。
主人公の辰村は大手広告代理店に勤めるやり手の営業副部長。
勘が鋭く、上司と対立しても一歩も引かない度胸の強さを持っている。
大手電機メーカーが金融業に乗り出すためのCMコンペに参加するところから話は始まる。
中途入社の戸塚に厳しく教育するシーンが出てくることで、広告業界の内情を垣間見ることができる。
それだけでも面白いのだが、クライアントに脅迫状が届くことで、ミステリー色もミックスされている。
辰村は大阪で過ごした中学生のころに、人には言えない秘密を幼馴染の勝哉と明子と共有していた。
その秘密が脅迫状により、25年後の現在に暴かれようとしていた。
クライアントの2代目社長と、その妻になった明子と勝哉の存在を追う辰村。
一方で18億円のコンペを勝ち取るために、辰村のチームは様々な方策を打ち立てる。
緊迫したビジネスシーンの描写はスピード感がある。ただ、脅迫状の謎追いは少し消化不良のように思う。
この小説の一番の魅力は人物描写の上手さにある。だから読んでいる間は飽きることは無い。
美人部長の立花、政治家の御曹司の戸塚、デイトレーダーの平野、バーの経営者の浅井。
様々な苦難を乗り越え、最終プレゼンテーションに望むクライマックスは面白い。
もう少し長くてもよかったと思ったほどだ。結末があっけないのが尻すぼみ感で覆われてしまう。
面白かっただけに、そこが残念。


シリウスの道 上 (文春文庫)

シリウスの道 上 (文春文庫)