雷電本紀

作者:飯嶋和一小学館文庫
江戸時代後期に実在した無敵の大関雷電為右衛門を描いた歴史小説
凶作による飢饉、頻繁に起きる火事や悪政にあえぐ江戸市民のもとに、彗星のように現れた雷電
並外れた巨体と無類の強さは、市民の喝采を浴び、一躍人気者になる。
雷電は信州小諸藩の生まれで、本名を太郎吉といい、幼い頃から身体が大きく、力が強かった。
しがない百姓のせがれだったが、奉納相撲でトリをつとめる腕前で、近隣の人気者だった。
近くの浅間山が噴火し、近隣の住民は食べるものもなく、米を買い占める商人や藩に憤りを募らせる。
上州から始まった打ちこわしは小諸や松代まで広がるが、首謀者は太郎吉の好敵手の日盛だった。
やがて打ち壊しは鎮圧され、日盛は殺されてしまう。
太郎吉の行く末を案じた父は、江戸相撲の親方に太郎吉を預け、太郎吉は江戸に出てくる。
太郎吉は名大関谷風梶之助に見出され、番付を伸ばしていく。
雷電が江戸の市民に好かれたのは、比類ない強さと、頼まれると子供を抱き上げる気さくさにあった。
鉄物問屋の主人の助三郎は雷電のタニマチとなり、支えるが、彼もこの小説の主人公である。
不正を嫌い、困る人を助ける助三郎のもとには、様々な人が訪れ、雷電以外の力士も現れるようになる。
雷電を巡る相撲の取組みの描写はいきいきとしているが、年を取るにつれ、力士達は姿を消していく。
雷電は力士達を供養するため、助三郎に頼み、釣鐘を奉納しようとする。
このことが、幕府の政争の材料にされ、助三郎は牢屋に入れられてしまう。
助三郎を救うため、雷電寺社奉行に掛け合うことになる。


この人の歴史小説は非常に面白い。市井の人をいきいきと描いているからだ。
お上に逆らう反骨心を鮮やかに表現している。これも傑作だし、もう少し注目されてもいい作家だ。


雷電本紀 (河出文庫―文芸COLLECTION)

雷電本紀 (河出文庫―文芸COLLECTION)