長崎乱楽坂

作者:吉田修一新潮文庫
昭和時代の長崎を舞台にした家族小説。
主人公の駿は父を事故で亡くし、母と弟とともに母の実家で過ごすことになった。
母の兄弟はヤクザで、長兄は実家を出て、一家を構えているが、次兄は実家におり、
子分が何人も住み込むような形でおり、賑やかだった。
離れをあてがわれた駿は、部屋から不思議な声を聞くようになる。
どうも自殺した母の弟が語りかけてきているようだった。
ヤクザやチンピラと共に少年時代を送る駿の生活。
昭和時代にまだ残っていた、田舎の路地裏の描写がはっきりとしていて、かえって物悲しい。
その後、母は次兄の子分と駆け落ちし、次兄は刑務所に入る。
長兄も落ちぶれてしまい、チンピラたちで賑わった家は、次第に寂しいものに変化する。
駿は同級生の梨花と東京に出て行くことを決意する。
最終章は東京で大学生になった弟の視点から描かれる。
結局駿は実家の離れにとどまり、引きこもりのような生活を続けていた。
駿の成長と挫折を淡々と描いていて、面白かった。
派手なストーリー展開はないが、過ぎ去っていく人と時間の空しさと無情さを上手く描けている。

長崎乱楽坂 (新潮文庫)

長崎乱楽坂 (新潮文庫)