卒業

作者:重松清新潮文庫
タイトルは卒業だが、死をテーマとした4つの中篇集。
主人公はいずれも40歳を差し掛かった男達。肉親の死と向き合う作品が3つ。
「まゆみのマーチ」は母の死を、出来の悪い妹と立ち会う話。
妹は母親に甘やかされて育ったため、地に足のつかない生活を送り、
主人公の兄は自分の息子の不登校に悩んでいた。
仰げば尊し」は在宅看護で、元校長の父を見送る小学校教師の話。
死体に異様な興味を持つ教え子に、父の容態を見せるが、隠れて写真を撮影する。
教え子の行動に不気味さを覚えるが、死に掛けの父は無言で指導をする。
「卒業」は14年前に自殺した学生時代の親友の娘が突然訪ねてくる話。
訪問に戸惑いながらも、昔を思い出し、WEBサイトの掲示板で交流が始まる。
だが、娘も自殺未遂をはかり、主人公は現在の父と対面する。
「追伸」は生みの母の思い出が強すぎて、育ての母に辛くあたる作家の物語。
親子関係は「ゆるす/ゆるされる」という関係は当たり前だが、そのことに気づくと残された時間は短い。
だから別れの間際に「もっと優しくすればよかった」とか「語り合えばよかった」と思うものなのだろう。
この作品集には、残される子の焦りにも似た後悔が綴られている。
肉親の死というテーマは、いずれ自分にも訪れることなので、身につまされた。

卒業 (新潮文庫)

卒業 (新潮文庫)