誘拐の誤差

作者:戸梶圭太双葉社
戸梶作品には珍しいシリアスな表紙とオビの内容。「本格警察小説」とうたっている。
ついに真面目な作品を書くようになったのかと、期待して読んだ。
だが、内容は相変わらずの戸梶テイストで埋め尽くされていた。
「田舎モノ」と「バカ」を徹底的にこき下ろす作風には少し飽きてきていたが、これは面白かった。
茨城県の田舎で、小学生が近くに住む30代のニートの須田に殺されてしまうところから始まる。
殺された小学生レオは、幽体離脱し、町と住民、警察を俯瞰するような視点で描かれる。
登場人物の行動や考えていることは、すべてレオには筒抜けで、皆ロクなことを考えていない。
犯人の須田は、パシリのコージを呼び出し、死体を始末するように命じる。
コージは頭が弱く、死体を処理した後、被害者の携帯電話で、親に1億円の身代金を要求する。
地元警察と県警が捜査本部を設置し、捜査が始まるが、警官たちの考えは赤裸々に描かれる。
気に入らない地元の住民を勝手に容疑者にしたり、無茶な取調べをしたり、揃いも揃って無能だ。
一方、須田はコージを殺し、刹那的な犯罪を重ねるが、悪運強く捕まらない。
チープな人間を書かせれば、右に出るものはいない作家だが、最近の作品は低調だったと思う。
だが、これは以前の暴力的な言葉のパワーが戻ってきて、スピード感のある面白い作品だ。
デビュー作の「闇の楽園」から「牛乳アンタッチャブル」までは不謹慎なくらいに面白い。
その後は、「チープトライブ」や「さくらインテリーズ」などは良いが、期待はずれのものも多かった。
だが、これは久々に面白い。何より、ストーリーが破綻していないのがいい。

誘拐の誤差

誘拐の誤差