翳りゆく夏

作者:赤井三尋|講談社文庫
「誘拐犯の娘が大手新聞社に内定」という記事を週刊誌に書かれた東西新聞社
内定者の朝倉比呂子は極めて優秀な成績で、人事局長の武藤は入社を説得する。
一方、社長命令で、20年前の新生児誘拐事件を再調査する窓際社員の梶。
梶は当時の警部や病院長にアプローチする。
彼らの述懐する20年前の誘拐事件の描写がスリリングだ。ここがまず面白い。
身代金を奪われ、必死で追う警察の目前で、比呂子の父は事故死する。
誘拐された赤ん坊は見つからず、謎を残したまま捜査は終了した。
梶は比呂子の父は共犯で、犯人は別にいると考え、単独で取材を続ける。
当時の関係者を取材しているうちに、警察の容疑から外れている人物を発見する。
その人物は事件から数年後、殺人事件で逮捕されていた。
被害者はその病院で勤めていた看護士だった。
彼の発見から、行方を捜すまでの過程が面白い。
最後に暴かれる事件の真相と、意外な犯人。結末の犯人の手記もいい。
オビに「読後、作中でもう一つの人生を生きてしまったように思う」とある。
まあ、それは大げさにしても、これは非常に面白かった。
半年前に読んだ「死してなお君を」も良かった。

翳りゆく夏 (講談社文庫)

翳りゆく夏 (講談社文庫)