神無き月十番目の夜

作者:飯嶋和一小学館文庫
関ヶ原の戦後、なで斬りにされる常陸北方の土豪のムラを描いた力作。
廃村かと思えるシーンで、村人を探すところから始まる。
この時点の描写が長く、少し退屈に思えたが、大量の死体が見つかり一変。
このムラは伊達との戦で勇名を上げた騎馬衆の藤九郎が治めていた。
話が過去にさかのぼり、何故村人が皆殺しにされたかを描いていく。
佐竹家が統治していた頃から、軍役に従事していたこのムラは年貢を免除されており、裕福な生活を送っていた。
関ヶ原後、改易された佐竹家の代わりにやってきた家康の5男は、隠し田を暴こうとする。
実直に検地を進めようとする江戸の役人と、村人との板ばさみになる藤九郎。
互いの誤解はスパイラルのように破滅の方向に進み、ついに村民皆殺しという結末となる。
勇敢に戦う村民の記述は最後の数ページだけで、悲惨にいたる過程を丁寧に描いているのがいい。
密告と不審な行動をするムラの若者。拠り所になっている土地信仰。
白戸三平のマンガにミステリーのテイストを追加したような雰囲気。
こんな歴史小説があったのかと意表をつかれた。これは非常に面白い。