皆月

作者:花村萬月講談社文庫
主人公の徳雄はパソコン好きのオタクの40男。
ある日、妻が預金を一切引き出して、謎の置手紙を残し、失踪してしまう。
抜け殻になり、仕事も辞めてしまった徳雄は、妻の弟のアキラと暮らし始める。
徳雄はアキラに斡旋され、ヤクザの事務所でコンピュータの仕事を始める。
アキラはヤクザにも嫌われるヤクザ者だが、何故か徳雄には優しい。
徳雄に暴行を振るった新宿のホモにはリンチを加え、角材で歯を叩き折る。
元気付けのためにソープ嬢をあてがい、同棲させるが、その女をいきなり犯す。
その後、しばらく姿を消すが、指を詰めて、徳雄とソープ嬢の由美のもとに戻ってくる。
3人の奇妙な生活が続くが、由美の金を騙し取った養鶏場の男をアキラが撲殺。
失踪した妻を探すのと同時に、徳雄、アキラ、由美の逃亡生活が始まる。
松本、飛騨、金沢と流れ、皆月というところで、妻と一緒に失踪した男を見つける。
主人公の徳雄はとことん情けない男だが、徐々にしたたかさを身につけていく。
アキラは冷酷非常で破綻した人格のようだが、実は愛情に飢えている。
作者にしては暴力も性描写も控えめだ。
極端な暴力なら「笑う山崎」、過剰な性描写は「ぢん・ぢん・ぢん」がいい。
でも再生や成長、癒しを感じさせてくれる、不思議な魅力がある作品だった。