灰の男

作者:小杉健治|講談社文庫
昭和20年3月に起きた東京大空襲をテーマに扱った大河小説。
主人公は一人前の噺家を目指す信吉と、自分の出生の謎を探す大学生の伊吹の二人。
敗戦色の高まるにつれ、信吉は家族を養うために働き、伊吹は学徒出陣で駆り出される。
そして昭和20年3月9日の東京大空襲。二人の大切な人も含め、10万人を超える死者が出た。
この空襲のシーンの描き方が圧巻だった。
「なぜ下町が標的にされたのか」「空襲警報の発令はなぜ遅れたのか」
戦後の記述は専ら信吉に移り、苦労して家族を養っていく様が描かれる。
だが、空襲の謎を追い続け、平成の時代に移った時、ある事件で二人は再会することになる。
戦争を描いた作品は多いけど、空襲を取り扱った作品はあまり無いと思う。
話としても非常に面白かったし、戦時中の上層部の行動には考えさせられるものがあった。
3世代に渡って、空襲の謎を追うが、長さはまったく感じなかった。
あまり話題になっていないが、傑作だと思う。